■ 歯石ではなく、炎症を見ている
歯科衛生士の仕事は歯石を取ることだと思われていることが多いのではないかと思います。
でも私はずっと違和感がありました。
本当に私たちが向き合っているのは、歯石そのものではなく「炎症」ではないか、と。
20年前、歯周病のスタディーグループに参加していた頃、
「喫煙者は出血も少なく歯肉が締まって見えるのに、炎症所見が乏しいまま歯槽骨吸収が進行していることがある」
という話を聞いたことがあります。
そのとき初めて私は、「見えているものだけでは判断できない」という臨床の難しさを知りました。
柔らかい歯肉と繊維質の歯肉は違う。
出血している歯肉と出血しない歯肉も違う。
そして、出血しないから安全とは限らない。
その経験が、今でも私の臨床の土台になっています。
■ 触診から始める理由
私はクリーニングの最初に、いきなり超音波スケーラーを当てません。
まず鎌形スケーラーで歯石の硬さや量、付着の状態を確認します。
触ってみると、すぐに外れる歯石と、そうでない歯石があります。
そして炎症の状態を見ながら、必要なところだけ器具とパワーを変えて処置をします。
■ 一律につるつるにする文化との出会い
ところが今の勤務先では、全歯面に一律に強めのパワーで超音波スケーラーを当てる方法が標準でした。
勤務当初、炎症が無く、汚れもきれいな部位には当てないようにしていたところ、
「そこもちゃんと当ててください」
と言われることがありました。
長く、ガリガリつるつるの同じ方法で施術を受けてきた患者さんにとっては、
全部の歯を超音波スケーラーをあててもらうことが「丁寧なクリーニング」に感じられるのだと思います。
実際、一律に強めのパワーで超音波スケーラーを当てて全部つるつるにしていく方が早いですし、
患者さんの満足も高いように感じることがあります。
■ それでも残る迷い
それでも私は迷います。迷いながら選んでいます。
炎症や汚れの具合が同じではないのに、処置が同じでいいのだろうかと考えるからです。
歯周病は部位によって炎症の状態が違います。
柔らかい歯肉と繊維質の歯肉も違います。
出血している歯肉と出血しない歯肉も違います。
だから私は、同じ処置をただ繰り返すのではなく、その場所の状態を読みながら処置を選びたいと思っています。
■ 現場での折り合いのつけ方
現在はセメント質への侵襲を最小限にしながら、渋々、軽く当てる方法で対応しています。
今の医院に勤務して2年が経ちました。
少しずつ患者さんの状態を見ながら調整しつつ、
患者さんの10年後、20年後を守る現代のメンテナンスにしていきたいと試行錯誤しています。
■ セメント質という見えない厚さ
セメント質の硬さは、物質として同じではありませんが、
臨床的な感覚としてはうずらの卵の殻ほどと言われています。
歯の根元付近では厚さは20〜50μmほどしかなく、
私たちは肉眼では見えないほど薄い表面に触れながら処置をしています。
条件によっては数回のストロークでも影響を受ける可能性があります。
それはまさに、1ミクロン単位の判断の積み重ねなのだと思います。
■ 歯石を取るのか、セメント質を守るのか
その表面を、私たちは毎回触っています。
歯石を取るのか。
セメント質を守るのか。
その境界は、肉眼では見えません。
■ 臨床の聖域とは何か
だから私は思います。
歯科衛生士の仕事は歯石を取ることが目的なのではなく、
炎症を読むことなのではないかと。
■ みなさんの臨床ではどうしていますか?
みなさんの医院では、超音波スケーラーは一律パワー強めで全歯面に当てますか?
それとも必要な部位だけ当てていますか?
旧モデルの「すべてガリガリつるつる」にする医院文化の中で、
炎症活動性やセメント質保護を考えながら侵襲を調整している
現代歯周専門寄りモデルの歯科衛生士のみなさんは、
どのような対応をされていますか?
臨床の中で感じている葛藤があれば、ぜひ教えて欲しいです。
「見るとは触れることである。」
= 人は“目だけで”見ているのではなく“身体全体の経験で”見ている
~メルロー=ポンティ

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